青碧の魔術師(黄昏の神々)

戦闘人形

リスノー伯の決意は、何処か的外れで滑稽(こっけい)だった。

絡み合わない歯車が、ギシギシと音を立てて回っている。

シュリが苛立っていた。

そう感じる事が出来るのは、一匹しかいなかったが、その唯一の者もこの場に出あぐねて、ここにはいない。

貼り付けていた感情が、剥がれ落ちて行く。

苛立ち、ささくれ立つ感情の感触が、ざらついて気持ち悪い。

ほとほと、馬鹿を相手にするのは疲れると、シュリは溜め息をこぼすと、イシスの下を辞して、レイノルズの横に立ち、彼を制する為言葉をかけた。


「もういい。すまない。分からず屋には、身体で分かって貰うしか無い様だ……」


リスノー伯をちらりと見つめ、レイノルズにしか聞こえないよう、悪態を付くシュリに、何か言いかけた彼だったが、シュリを見て頭を下げると、何も言わずに数歩下がった。


「リスノー伯爵? と、呼んで良いのかな? 一応聞いておくが、魔人トレントの前に数百の魔物退治が控えてるって事、理解しているのか?」

「数百?」


初耳だと言うかの様に発する声音は、何処か不思議そうで事態を把握していない様に聞こえる。

シュリは、削ぎ落とした感情の現れない顔つきのまま、リスノー伯に答えた。


「そう。前回はざっと数えても400はいた。今回はそこまで無いにしても、全くいないとも限らない」

「お前……『青碧の魔術師』だったか、お前が魔人を退治しそこねたせいで、姫君がいたわしい目に遭ったのだな」


全くもって、会話が噛み合わない上に、貴族の思い上がりがリスノー伯の薄い唇に刻まれる。

あからさまに馬鹿にした態度。

シュリが赤の他人に、暴言を吐かれる謂(いわ)れは無い。

辺りに嘲笑めいたざわめきが広がり、平然とするシュリの代わりに、レイノルズがイライラと怒りの声を上げようとした時だった。


「およしなさい! リスノー伯爵。言葉が過ぎましてよ!!」


その場に、凛とした声が響いた。

イシスの上げた声だった。


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