青碧の魔術師(黄昏の神々)
「さて……、あんたの実力見せて貰おうか」


上着の衿元のボタンと袖口のボタンを2、3個外して、動きやすいように袖を捲る。

シュリは、剣を差し出すレイノルズの腕を、やんわりと押し返し小声で言った。


「万が一にも、怪我をさせる訳にはいかないからな。それは遠慮しておくよ」

「ですが……丸腰では、御身が……」


レイノルズが囁き返す言葉に、シュリは感情の現れない顔付きのまま、唇の端だけを吊り上げる笑いを見せて言った。


「俺を誰だと思っている?」


その言葉に、返事は無い。

シュリは、笑顔を無機質な顔に貼り付けたまま言葉を続ける。



「青碧の魔術師だぞ」



不遜な態度に見える、シュリの言葉。

だが、そんな尊大に写る態度も自然に受け入れられる。

それだけの確固たる自信。

それが、彼には似合っていた。




シュリが、リスノー伯爵と対峙した。


「逃げるなら、今の内だぞ」


シュリが言う筈の言葉を、先に口にしたのはリスノー伯。

シュリは片眉を上げると、ニヤリと笑った。


「大した自信だ。余程のてだれかただの馬鹿か……どちらにしろ、あんたの実力見せて貰う」


シュリのその言葉が合図となった。

リスノー伯が、剣を鞘に納めた形のまま、振りかぶってシュリに襲いかかった。

シュリは慌てる事無く、右手の人差し指で目前の空間に四角い図形を描いた。

その空間が、一つのアクリル板に変化したように、質感と物質を持って一枚の板が現れた。

それが一気に倍に大きく変化し、シュリとリスノー伯を隔てる大きな壁となる。

その壁の存在に気付かないリスノー伯は、打ち込んだ剣と共に後方に弾かれた。

飛ばされそうになる所を、すんでのところで踏ん張って堪える所は、さすがに自信過剰になりえただけはある。

体力と力だけは有りそうなリスノー伯を見て、シュリは初めて彼の目前で、その表情を苦笑の形に歪ませた。


「魔術師とは良く言ったわ。どのような技か解せぬが……こんなもの破って見せるわっ!!」


無言のシュリを無視したまま、己のテンションを数倍に引き上げて、リスノー伯が鞘を引き抜き投げ捨てた。


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