青碧の魔術師(黄昏の神々)
そんな風にギリギリで、リスノー伯の攻撃をかわすシュリに、何を勘違いしたのか、自分の方が優勢と思い込んだリスノー伯の流れる様な剣捌きが、一段と冴え渡る。


「さあさあ、早く降参せねばケガをすることになるぞ」


得意げにうそぶくリスノー伯にシュリがニヤリと笑って言い返す。


「怪我? 夢なら寝て見るんだな。生憎だが、あんたと遊んでいる暇など無いんだ。ここいらでケリを付けさせて貰うよ」

「ふん! なんとでも言うがいい。地にひれ伏すのは、貴様の方なのだからな!」


近い場所での会話がすんだ合図と言うのか。

お互いに間合いを取る為なのか、距離を取るように、二人同時に飛び退る。

シュリは、異常な程に高まるリスノー伯の闘気を、その身に受けてもなお、涼しげな顔つきのままで怯まない。

すっと右腕を水平に持ち上げて、リスノー伯を指さすと手首を返し、


「かかって来な」


と、うそぶいて指を折る、お決まりのポーズでリスノー伯をたきつけた。


「お、お前……私に対するその扱い……」


リスノー伯の剣を握る手が、小刻みに震えている。

屈辱的な扱いを受け、すごすごと引き下がる彼では無い。


「死に価すると思え!」


獣が吠える様な、リスノー伯の怒号。

その声と共に、リスノー伯は大理石の床を蹴ると、シュリに向かって飛び掛かった。




リスノー伯の誤算。

それは、

シュリが、『青碧の魔術師』だと言う事。


そして、

『青碧の魔術師』の本当の強さが、実は剣技などでは無く、彼の身に宿る魔術と、魔術書なのだと言う事に、ほとほと気付かされる事になろうとは、この場に居合わせた者は、一匹を除いて、誰も考え及ぶ事はなかった。


「まずい……非常にまずい事になったよ……シュリってば、すんごく怒ってる……そういえば、たいした道具、用意してないって言ってたよなぁ……だとしたら、使う物って……」


テーブルの下で、一部始終を見ていた猫一匹。

彼だけが、この先に起こる事態を、予測していた。

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