青碧の魔術師(黄昏の神々)
ルルイエ異本
シュリ目掛けて打ち込むリスノー伯が、再度目に見えぬ何かに弾かれて、後ろへと後退する。
シュリが、変わらず右腕を上げたままで、微動だにせず、じっと前を見据えていた。
否。
何か、言の葉を唇にのせている。
この場にいる誰もが、聞き覚えの無い言葉。
それは、音の様にも聞こえ、歌の様に響く。
歌の様な言葉は、次第にはっきりとした音となり、人の心の琴線に触れる様に、ゆっくりと辺りに満ちてゆく。
さすがのリスノー伯でさえ、攻撃するのを躊躇する程の声。
それが、魔術師の使う言の葉なのだと言う事を、誰も知らない。
知らなくて当然か。
シュリは、この世界に現存する、最後の魔術師なのだから。
そして、この不思議な言葉は、彼が魔術師なのだと言う事を、そこにいる全ての人々にしらしめた。
シュリの声が、周囲の状況を変える。
何処からか風が吹き込み、大理石のホールに、微かに塩の香りが漂う。
「深く蒼き海の底、眠りに落ちしルルイエの、都に眠る魔道の書。我が身に還り、我が声に応えよ。我、汝を召喚す。魔道書、ルルイエ異本!」
この言葉だけは、周囲の者にも聞き取れた。
だが、意味がよくわからない。
ルルイエの都とは。
ルルイエ異本とは。
シュリは、何を呼び出したのか。
何処から吹き込むのか、ますます潮風が強くなる。
竜巻と言っても過言では無い風が、シュリを中心に、外に向かって渦巻く。
それは、暫くシュリの回りを渦巻いていたかと思うと、突然動きを変え、彼の手の平から、上空へと、速度を上げて立ち登っって行った。
その強い風と共に、虚空に顕現したのは、一冊の大きくて分厚い本。
その姿は巨大で、装丁は不気味だ。
何故かと言うと、その魔道書の装丁は、人の皮を使用して、できている物。
そしてその表(おもて)には、人の顔が張り付いていた。
宙に浮く魔道書と、それを眉一つ動かさず凝視するシュリ。
そんな異常な状況で、回りがざわつくのは無理もない。
痛い程の人々の眼差し。
驚愕におののく人々の声と、視線に晒される中で、ルルイエの書は、シュリの手の平の上まで降りて来ると、彼の前に顔を向け、ゆっくりとした動作で、閉じていた目を開いた。
シュリが、変わらず右腕を上げたままで、微動だにせず、じっと前を見据えていた。
否。
何か、言の葉を唇にのせている。
この場にいる誰もが、聞き覚えの無い言葉。
それは、音の様にも聞こえ、歌の様に響く。
歌の様な言葉は、次第にはっきりとした音となり、人の心の琴線に触れる様に、ゆっくりと辺りに満ちてゆく。
さすがのリスノー伯でさえ、攻撃するのを躊躇する程の声。
それが、魔術師の使う言の葉なのだと言う事を、誰も知らない。
知らなくて当然か。
シュリは、この世界に現存する、最後の魔術師なのだから。
そして、この不思議な言葉は、彼が魔術師なのだと言う事を、そこにいる全ての人々にしらしめた。
シュリの声が、周囲の状況を変える。
何処からか風が吹き込み、大理石のホールに、微かに塩の香りが漂う。
「深く蒼き海の底、眠りに落ちしルルイエの、都に眠る魔道の書。我が身に還り、我が声に応えよ。我、汝を召喚す。魔道書、ルルイエ異本!」
この言葉だけは、周囲の者にも聞き取れた。
だが、意味がよくわからない。
ルルイエの都とは。
ルルイエ異本とは。
シュリは、何を呼び出したのか。
何処から吹き込むのか、ますます潮風が強くなる。
竜巻と言っても過言では無い風が、シュリを中心に、外に向かって渦巻く。
それは、暫くシュリの回りを渦巻いていたかと思うと、突然動きを変え、彼の手の平から、上空へと、速度を上げて立ち登っって行った。
その強い風と共に、虚空に顕現したのは、一冊の大きくて分厚い本。
その姿は巨大で、装丁は不気味だ。
何故かと言うと、その魔道書の装丁は、人の皮を使用して、できている物。
そしてその表(おもて)には、人の顔が張り付いていた。
宙に浮く魔道書と、それを眉一つ動かさず凝視するシュリ。
そんな異常な状況で、回りがざわつくのは無理もない。
痛い程の人々の眼差し。
驚愕におののく人々の声と、視線に晒される中で、ルルイエの書は、シュリの手の平の上まで降りて来ると、彼の前に顔を向け、ゆっくりとした動作で、閉じていた目を開いた。