青碧の魔術師(黄昏の神々)
ルルイエはイズナエルと意気投合し、会話に花を咲かせ、エステルは、彼の奥方も交えて、国王夫妻と談笑していた。

イシスは、祝いの声をかける人々と会話を楽しみ、請われればダンスの相手すらした。

シュリは、先程の事もあってか、近寄り難いらしく、誰が来る事も無く、壁の花を決め込んでいた。

彼が、この場に居る面々をぐるっと見渡し、変わらぬざわめきに息を付く。

険しい表情が、緩む事は無い。

ひとごこちしたのか、ロイがいつのまにかシュリの横でチマッと座っている。

シュリを見上げてロイが言った。


「どうした? ずっと険しい顔のままだよ?」

「いや……。ちょっとな。嫌な予感がしてな」

「嫌な予感?」

「あぁ……正確には気配?」


眉をしかめるシュリに呼応して、ロイがクンクンと鼻を鳴らして、空気を嗅ぐ。

空気に混じって、甘ったるい香りと共に、微かに臭う生臭い、何かが、腐敗した臭い。


「シュリ!! 臭う! コイツは!」

「……旧神……。奴ら、性懲りも無く渡って来たか……」

「目的は、やっぱり……」

「もう一人の俺だろうな……」


眇られたシュリの瞳。

目線の先は、銀髪の男。

麗しい顔に、シュリの様に『微笑』を貼り付け、イシスと談笑している。

「ちっ!! 俺とした事が抜かった!!」


シュリが少し慌てた様子で、イシスの下に向かおうと、一歩踏み出して、男と目が合う。

イシスがシュリに気付いて、微笑みつつ、手を振った。

男が、ニヤリと笑ってイシスの細い手首を掴んだ。


「……? 何ですか?」

「イシス姫。貴女に非は有りませんが、あの方を捕える為、囮になって頂きます」


男が、イシスを抱き寄せる。

急な出来事にイシスは一瞬、呆然として抗う事が出来なかった。




事は、少し前に遡る。



次々に来る、祝いの挨拶にイシスは丁寧に応えていた。

喜びの感情を全身で現して、『おめでとう』を受ける。



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