青碧の魔術師(黄昏の神々)
その内容と言えば、『誕生日おめでとう』と言うより『婚約おめでとう』の方が遥かに多く、国民性のせいなのか、あるいは、シュリの強さと身分に納得したのか、気の早い彼等は、今の時点でもう、トレントの事は解決扱いだった。


そして、事は動き始める。


パーティーの客達をそつなくあしらっていたイシスは、新に近付いて来た青年に気が付いた。

長い銀の髪が、一歩一歩、歩く度に左右に揺れ動く。

冷たい感じのする美貌と、唇の端を吊り上げて笑う形だけの微笑。

誰かに雰囲気が似ているとふと思ったイシスだが、やっぱり違うと考え直す。


「シュリ様なら、もっと優しいお顔をなさいますもの……。でも、少し雰囲気が似てらっしゃる」


そう。


髪の色もさることながら、全体の醸し出す雰囲気が、シュリと良く似ているのだ。

シュリには、兄弟はいない。

だが、男はシュリに似ていた。

それが、イシスの警戒心を鈍らせた。


「姫君におかれましてはご機嫌麗しく存じます。この度は、18歳のお誕生日、おめでとうございます」


男がイシスに向かって優雅にお辞儀をする。

そつなく和らげな動きと、笑顔と声に、イシスはもののみごとに、男の第一印象を払拭させてしまった。


「有難うございます。初めてお目に掛かりますね。どちらの方ですか?」


イシスの問い掛けに、男は少し考え込む仕草を見せたが、直ぐにニコリと笑った。


「そうですね。ほら、あちらから歩いて来られる方と、出身は同じですよ」


男がそっと指差した先に居るのは、シュリ。

男は、シュリをじっと見つめ、再度言葉を紡ぐ。


「とは言え、種族としては敵対してはいますけど……」


男が指差していた人物に、笑って手を振っていたイシスは、男の言葉を耳にして、慌てて彼の方を振り返る。


「えっ?」

男が、ニヤリと笑ってイシスの細い手首を掴んだ。


「……? 何ですか?」

「イシス姫。貴女に非は有りませんが、あの方を捕える為、囮になって頂きます……」


男が、イシスを抱き寄せる。

急な出来事にイシスは一瞬、呆然として抗う事が出来なかった。


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