青碧の魔術師(黄昏の神々)
だが、次のシュリの言葉で彼女は、落ち着いた自分を取り戻した。


「今、助ける」


りんとした、強い意思の宿る声音。

シュリが、再度動くのと、男が上空に向かって飛び上がるのが同時だった。


「きゃあああぁ――」


男と共に空中に浮き上がるイシスの悲鳴が、シュリの耳に届く。


「ロイ、ここの連中を避難させろ」

「シュリは?」

「奴を追う」


その場で別れる一人と一匹。

男は、遥か上空へと逃げていた。


「イヤッ! シュリーッ!!」


泣き声にちかいイシスのシュリを呼ぶ声。

その時だった。

空中に浮かぶ男と、イシスの真後ろから、間延びした男の声が降って湧いた。


「あのさぁ、君。『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んじまえ』って諺、知ってる?」


何の気配もしなかった。

後ろを取られた男は振り返る前に、両肩に激痛を感じイシスから手を離してしまった。

後ろの男に、両肩を一瞬で叩き潰されたのだ。

真っ逆さまにイシスが落ちて行く。


「シュリぃ〜! イシスちゃん落としたからね〜。後、ヨロシクゥ〜」

「漣っっ! てめぇふっざけんなぁぁっ!」


シュリは叫びながら、落ちて来るイシスを受け止めようとダッシュをかける。

四階建ての建物の、吹き抜けとなっているこの城のホールのてっぺんから、真っ逆さまに落ちたのでは、無事にすむ訳が無い。

シュリが間に合っても、今度は受け止める彼が怪我をする。


シュリがただの人間ならば。


「イシスーッ!!」


気を失っているイシスの身体の落下速度が、シュリの起こす風によって緩む。

叫んだシュリが、咄嗟に起こした風が、意識の無い彼女を包み、シュリの腕の中にゆっくりと降ろした。

ホッと安堵の息を吐く。

そんなシュリ達二人の側に、寄り添う様に二つの影が現れる。


「ナイスキャッチ! シュリ! さっすがだね」

「とりあえず、避難させたよ。後、どうする?」


緊張感ゼロの漣と、硬い声音のロイだ。


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