青碧の魔術師(黄昏の神々)
「その姿で私とやり合う気ですか? ハスター様」

「まさか。流石にそこまでマヌケじゃない」

「なら、お待ちしましょう。私は昔から貴方が嫌いだったんですよ。そんな経緯が有りますんで、同等レベルで戦わないと、寝覚めが悪くなりますからね。だから貴方自身になられるまでじっくりお待ちしますよ」


いつにもまして、饒舌になる男に対して、シュリも邪悪と思える微笑を湛え、男に応じる。


「そりゃ偶然だな。『私』もお前が嫌いでね。ナイアルラトホテップ」


シュリが、左腕を上げる。


「ルルイエ!」


呼ばれた瞬間、彼の手にはルルイエが握られる。

瞬間異動。

魔術書には、この様な芸当は朝飯前。

シュリは、無機質な声音を、人間的な声に装う事も無く、ルルイエに命じる。


「召喚。我が僕、『バイアグヘー』」

「承知。風の神ハスターの僕バイアグヘー召喚」


ルルイエも、先程とは違い、機械的に言葉を紡ぐ。

ルルイエ自身が、シュリの手の上でパラパラと頁を開き止まる。


そして、呪文の永昌を始めた。


「ビヤーキー、ビヤーキー。鳥でも無く、もぐらでも無く、蟻でも無く、蝙蝠でも無く、人間でも無い者よ。時と空間を渡る者よ。我、ハスターを讃えん。故、汝を召喚す。降臨せよ、バイアグヘー」


ロイの回りを風が舞う。

小さい風が、どんどん広く、高く、大きく立ち上る。

風は、ハスターの象徴。

竜巻の様な風が止む頃、中から現れたのは、可愛らしい黒猫ロイでは無く、体長が2メーターを越す蜂の羽とお尻が特徴の どう見ても可愛いとは言えない者だった。


「あーやだやだ。この姿。なんで又、バイアグヘーなの? シュリ?」


悪態ついて腕を組み、話す声はロイのまま。


「結界と、音速移動はお前が適任だろう? バイアグヘー」


唇の端だけを吊り上げた笑顔を湛えたシュリは、 悪びれる事無く言い放つ。

蜘蛛の子を散らした後のこの場には、僅かな人間しか残って居なかったが、誰もこの場を去ろうとしない。

エステルに、近衛隊の3名、イズナエルまでこの場に留まっていた。


< 93 / 130 >

この作品をシェア

pagetop