青碧の魔術師(黄昏の神々)
風が立ち昇る。

と、同時にシュリがルルイエを投げ上げて叫ぶ。

「ルルイエ! 捕縛の椅子召喚! ロイ、お前、空間を切り離せ! アイツは俺が引き受ける!」


シュリの風が、轟音を上げてナイアルラトホテップに襲い掛かる。

鎌鼬。

防御から攻撃に転じた風は、ルルイエとロイを避けて猛威を振るった。

触手を何本も切り捨てられていると言うのに、ナイアルラトホテップは、何事にも動じず、シュリの鎌鼬攻撃の隙間を縫って、先端を尖らせた触手を彼に送り出す。

それを寸前で交わして、シュリは後退する。

突かれれば、痛いではすまない。

死ぬ事の無い彼でも、手痛いダメージは必然的に喰らってしまう。

攻撃の鎌鼬に加え、防御の風も同時に起こす。


そしてシュリは、イシスの目前まで追いやられ、彼女の前で唐突に変化した。







立っていられない程の風が吹いているはずなのに、イシスの側に吹く風は優しかった。

シュリの戦いを、固唾を飲んで見守る。

本当は崩れそうになる脚を、立っていられる様に踏ん張る。

幸いにも、漣がイシスを支えてくれる。


「私は何も出来ない……シュリさまが戦っておられると言うのに、私は……」


呟く言葉に、悔しさが滲み出る。

漣が、そんなイシスを見て、支える彼女の肩をぎゅっと握った。


「イシスちゃんが、気にやむ必要はないよ。大変そうに見えて、あれであいつ、ナイアルラトホテップ相手に遊んでる。余裕ぶっこいてんね〜」


感心したというか、呆れたというか、漣の口調は複雑だった。


「元々、ナイアルラトホテップごときが、相手になる奴じゃないんだよ。ハスターは。あれは、クトゥルーの弟だからね。強いよ」


漣の言葉に、イシスが彼を見上げる。

漣は、にこりと彼女に笑いかけた。


「今は考えなくていいよ。おいおいわかって来るから」

「? わかりました。シュリさまにはシュリさまの事情がありますもの。話して頂ける様になるまで待ちます」


本当はシュリの事なら、何でも知りたい筈だと思う。

だが、イシスはちゃんと待つ気でいた。

シュリが自ら打ち明けてくれるまで。
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