青碧の魔術師(黄昏の神々)
「いい子だね。イシスちゃんは」


食い入る様にシュリを見つめ続けるイシスの側で、漣は、ボソッと呟くがイシスは彼の言葉に気付かない。


「セレナちゃんの様に、ハスターも愛せると良いんだけど……こればかりは神(我等)にも解らぬしなぁ……」


イシスがハラハラした顔で見つめる目線の先には、漣の息子。

少しづつ漣達に向かって後退してくるシュリを見て漣は悟る。


「いよいよお出ましかぃ? 我が息子にして、弟……邪神ハスター」


漣の呟きが、イシスの短い悲鳴によって掻き消される。

触手の一本がシュリの首をかすめ、同時に襲い来るもう一本が心臓を捉える。

咄嗟に動いたシュリ。

横には動けない。

なぜなら、彼の後方にはイシスがいる。

漣が守っている事は、解りきっている。

危険も無いと言う事も。

知ってはいる。

だが、シュリは避けなかった。

一瞬、風が吹き上がる。
イシスの目の前を突然、くすんだ黄色が被いつくす。

次の瞬間。

風が凪いで、黄色い衣が地面にストンと落ちた。

背の高い後ろ姿。

黄色い衣は外套で、地面スレスレまである裾で、足元が見えない。

フードを被っているせいで、彼がどんな人物かも知る事ができなかった。


ただ一つ判るのは、心臓目掛けて来た触手を掴む白い腕。

明らかに、男の腕と見て取れるが、抜ける様な白さは、尋常な色では無い。

彼がゆっくりと、頭を巡らし、掴んでいる触手を見た。

イシスが息を呑む声が、漣の耳に届く。


「何故? 何故私はあの人を知っているの?」


『懐かしい』と『愛しい』二つの思いに、心が、歓喜の声を上げる。

まるで、シュリに出会った時と同じように。

ざわつく心臓にイシスは両手を当てて、もう一度彼を見た。

深く被ったフードで口元しか見えないが、イシスの脳裏には、彼の顔や外套の中の姿が、ハッキリと浮かんでいた。


「私は……」

「当然、と言えば当然だね」

「えっ……」


イシスの呟きに、漣がハスターをチラリと見て囁く。
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