青碧の魔術師(黄昏の神々)
「んー。だって、イシスちゃんは、セレナちゃんの生まれ変わりでしょ。そして、少なからず記憶もある」


『ねっ』と、漣はイシスに同意を求めると、話しを続ける。


「で、シュリの奥さんはセレナちゃんだった訳だから、おのずと……」


漣は、みなまでは言わなかったが、言いたい事は予測が出来た。

シュリとハスターは同一人物。

両者、魂を全く同じとし、人の器にそれを置く。

綿々と続く記憶の糸。

ハスターは、過去から現在まで、様々な呼び名を持っていた。

二つ名や、通り名以外にも、時代時代の呼び名まで有るのだ。

シュリ。

それは今の彼、ハスターの、現在の『名前』だった。


「だからまぁ、覚えていても変では無いんだよね。記憶に関して言えば逆に覚えてるってのが、本当はおかしな事なんだし」


『そうは思わないかぃ?』と漣に問われ、イシスは素直にコクリとうなづいた。


何故、イシスには前世の記憶が残っているのだろう。

唯一その秘密を知る者は、イシスの目の前に居る黄衣の王ただ一人。

全ては彼が知っていた。










力が身体の奥底から沸き上がり、外へと溢れ出そうと暴れている。

シュリは、左手に有る触手に目をやった。

手の中で蠢く触手が、どこと無く苦しんでいるように見える。

ハスターとなったシュリが、白い顔に映える紅い唇を、ニンマリと笑いの形に歪めた。

ナイアルラトホテップ以上に、背筋が凍る様な冷笑。

情けも手加減も、持ち合わせていないであろう、ハスターの仕草。

その何気なく放った力は、駆け巡る様な速さで、触手を這い、端から干からびさせて崩折れて行く。

灰が降り積もる様に、触手だった物が、地面に長い帯を作り出した。

切り刻む事とは明らかに違う方法。

それが、彼の身体の内側から造られた力だとは、誰も解らなかった。


『バシュッ』


何かが弾ける音がして、ナイアルラトホテップの触手の腕がちぎれ飛ぶ。


シュリは何もしていない。

いや、違う。

手の内にあった触手が灰になった時、上げていた左手をダラリと下げたのだ。
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