好きだから、別れよう。



「あ、あの…こんばんは!」



彼女は笑顔で話しかけてきた。



すごく嬉しかった。



予想外に、こんな時間に会えたこと。



そして、俺を見つけて話し掛けてくれたこと。





「……これは?」



俺はちょっと不機嫌そうな顔をして、右手の小指を立てた。



照れ隠しだったんだ。





「この時間は女性専用車両ないから…」



あぁ、やっぱり。


この子は約束を守るいい子だ。



ヤバイ、どんどん好きになる。









「あ…暑いですね〜!」



彼女は鞄から団扇を取り出して扇ぎ始めた。


団扇の風に乗って、髪がさらさらと揺れるのが見えた。


見え隠れする首筋。




「貸して」




俺は彼女から団扇を奪った。



奪うとき、少しだけ手が触れた。



彼女の手は冷たかった。







冷房のせい?





――俺が温めてやりたい。






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