覆水
まあ、あれだよ。こんな結果になっちまったけどよ、俺は結構満足してるんだ。
最後に、描いた絵は、ほんとに伸び伸び描けた。良くも悪くもそれで最後、って決めたら、すっと体が軽くなんのを感じた。何かが宿ったのかも知れねえ。最高の出来だ。神か、悪魔か。悪魔だろうな。お前にやるよ。餞別だ。やべえ、今、俺かなりかっこいいな。
舞花も惚れるかな? 惚れねえよな。舞花が好きなのは、お前なんだもんな。いや、分かるよ。俺は、舞花に相談を受けた時、義久には言わないでって言われたんだ、本当の所。当たり前だ。好きな人間には、弱みなんて見せたくないもんだからな。俺は、その気持ち、すげえ分かる。俺は、自分の抱えた辛い事を、おまえらに何一つ言えなかったんだから。舞花は、お前に聞かれたくなかったんだよ。だから、俺に相談したんだ。辛いな。思ってることを言えないって言うのは辛いよ。後、もう一つあるぞ。要司さんだ。けれど、それ以上は言わねえよ。意地があるからな。
うん、だから、舞花はお前が幸せにしてやってくれ。お前なら出来る。お前は素直だから。ああ、酔ってんな。義久、酒旨かったか? 俺は嫌いだ。旨くねえ。
舞花にこの絵を上げようとずっと思ってたけど、あげねえ。俺が連れていく。舞花にはこれを贈る。俺の作品より、ずっと意味があるわ。あ、気付いたか? 俺は言わねえよ? 舞花に訊け。同封したのは、俺の、最後の意地だ。最後の、秘密だ。
俺は、未完成の、舞花と、水姫と行く。
けれど、ああ、俳句? 短歌? 分かんねえけど書く。
帰り道
秋の夕暮れ
コスモスを
見ていて思う
いつ何時までも
下手だな。真似事は良くねえ。文学は、お前等の分野だ。しかし、願わくば、もう一度、あのマンションで遊びたかった。
舞花には言うなよ。辛いから。カッコつけて行かせてくれ。じゃあな、義久。
バイバイ。
憲広。
最後に、描いた絵は、ほんとに伸び伸び描けた。良くも悪くもそれで最後、って決めたら、すっと体が軽くなんのを感じた。何かが宿ったのかも知れねえ。最高の出来だ。神か、悪魔か。悪魔だろうな。お前にやるよ。餞別だ。やべえ、今、俺かなりかっこいいな。
舞花も惚れるかな? 惚れねえよな。舞花が好きなのは、お前なんだもんな。いや、分かるよ。俺は、舞花に相談を受けた時、義久には言わないでって言われたんだ、本当の所。当たり前だ。好きな人間には、弱みなんて見せたくないもんだからな。俺は、その気持ち、すげえ分かる。俺は、自分の抱えた辛い事を、おまえらに何一つ言えなかったんだから。舞花は、お前に聞かれたくなかったんだよ。だから、俺に相談したんだ。辛いな。思ってることを言えないって言うのは辛いよ。後、もう一つあるぞ。要司さんだ。けれど、それ以上は言わねえよ。意地があるからな。
うん、だから、舞花はお前が幸せにしてやってくれ。お前なら出来る。お前は素直だから。ああ、酔ってんな。義久、酒旨かったか? 俺は嫌いだ。旨くねえ。
舞花にこの絵を上げようとずっと思ってたけど、あげねえ。俺が連れていく。舞花にはこれを贈る。俺の作品より、ずっと意味があるわ。あ、気付いたか? 俺は言わねえよ? 舞花に訊け。同封したのは、俺の、最後の意地だ。最後の、秘密だ。
俺は、未完成の、舞花と、水姫と行く。
けれど、ああ、俳句? 短歌? 分かんねえけど書く。
帰り道
秋の夕暮れ
コスモスを
見ていて思う
いつ何時までも
下手だな。真似事は良くねえ。文学は、お前等の分野だ。しかし、願わくば、もう一度、あのマンションで遊びたかった。
舞花には言うなよ。辛いから。カッコつけて行かせてくれ。じゃあな、義久。
バイバイ。
憲広。