魚姫
『何をそんなに泣いてるの』

あたしの周りの水泡がぱちんぱちんと弾けるたびに、ささやくような声が聞こえてくる。

誰?

警戒して、構える。

『大丈夫よ、海の者を襲う必要なんてないから』

気味が悪かった。

何か禍々しいもののようで、あたしはググッと体を引き締めると、視野を目一杯広げた。

『クスクスクス。可愛いイルカだこと。群れからはぐれたのね?』

あたしの仲間のこと、知ってるの?

『あたしはなんでも知ってるわ。だって、海を支配するものだもの。さぁて、そろそろ仕事しなくちゃね』

ねぇ、教えて、あたしの仲間はドコにいるの?!

『もっと西よ。ずっと西。そこにはあなたと同じ種類のイルカがいるわ。分かったらとっととお行きなさい。あなたがいると気が散るわ』

どうして?

『これから船を沈めに行くのよ。巻き込まれる前に逃げないと、知らないわよ』

どうして?!

『人間を殺すために決まっているじゃない。目・・に、余R・・のゥよ!あいつら・・は、邪、魔、なァ・・ッNォゥ!!』

その声を引き金に、ボコボコボコ!!!と激しく泡が立ったかと思うと、大きな大きな何かの影が真っ直ぐに船へ向かっていった。

ダメ、ダメ!!やめて、その船にはっ!!!

「キュイィィィイッ」

あたしの泣き声に、彼が振り返って。

ドオオオオオオオッッッ・・・・・!!!

大きな影は激しく船にぶつかり、白い壁は嫌な音を立ててひび割れていった。

悲鳴と白く大きな船体を、海の唸りが巻き込んでゆく。

彼は一瞬あたしを見て、落下する彼女の手をつかもうと身を乗り出した。

あたしは怖くて、震えた。

体の全てが、凍ってしまったみたいで、息すらできなかった。

キリク!!

リジー!!!


< 17 / 26 >

この作品をシェア

pagetop