魚姫
大きな・・・とてつもなく大きな渦が、何層もの弧を描き、海を丸ごと飲み込む勢いでうごめいてた。

真っ二つに割れた船を中心に、残骸やたくさんの人間が、猛烈な勢いで飲まれてく。

泳ぎの得意なあたしでさえ、まっすぐに泳げない。

それどころか、渦の中は残骸が高速回転していて、色んな物が体をかすめてゆくから。

傷ついた身体はとっくに悲鳴を上げていた。

ああ、意識が朦朧としてく。

だけど、あたししかできないんだもの、もっとしっかりしなきゃ!!

何度も何度も体を奮い立たせたけど、正直苦痛に絶えられなくて。

自我さえ遠のきそうだった。

キリク・・・

高らかな笑い声が、水の中いっぱいに反響する。

あの化け物だ。

あたしは我に返った。

必死に眼を懲らすと、彼の姿を探す。

キリク、

キリク、

キリク!!

死なないで、キリク!!!

必死に探して、見つけたものは。

彼女を抱えて揺れる、彼の姿だった。

その腕は傷つきながら、しっかり彼女を抱えて微動だにしない。

あたしは必死に尾を振ると、彼の襟元くわえて水面へと上り詰めた。

死なないで、死なないで!!

彼の額から赤い血が流れてく。

幸いにもサメは遠く離れているようで、襲ってくる気配はなかった。

あたしはぐっと体に力を入れて、珊瑚礁が盛り上がった浅瀬へと泳いでいった。

ここなら、異変に気づいたあの人間達が、見つけてくれるかもしれないと思ったから。

白化した珊瑚が流れ着き、海面すれすれに出来上がったテーブルの上に、ぐいぐいと体で押しやった。

これで、ふたりが窒息することはないはず。

安堵したのもつかの間で。

ふたりは一向に目覚める気配がなかった。






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