魚姫
『あなたが呼んだのに』

急に海の温度が下がったような気がした。

『あたしは海の象徴。化身。色々例えられているわ・・・人間からは神とも呼ばれてる。クスクスクス、あたしはあたしであって、他のなんでもないのにね』

どんどん水も風も冷たくなってゆく。

ふたりを見ると、ますます青ざめてた。

「あなたが神様なら!お願い、ふたりを助けて!」

『クスッ、クスクスクス!!何故?あなた見てなかったの?・・・嫌いなのよ、人間なんて
!』

「どうして・・・」

『人間は陸の者。海を汚すことは許されない』

「キリクは悪いことなんてしてないわ!!」

魚影はしばらく空の水泡を飛ばした。

まるで長いため息をついてるみたいに。

『どうしてこだわるのよ。第一、その女のことは嫌いなんじゃなかったの。そんな人間なんか忘れて、仲間たちのもとへ行けばいいじゃないの。そんなにその男が好きなわけ?・・・ハァッ、男の方は気絶してるたけだからなんとかなるわよ、放っとけば?直に迎えも来るし』

あたしは少し黙った。

色々、心の中を整理して、口にしようって思ったから。

「・・・仲間には会いたい。今すぐにでも行きたい。ずっと、ずっと願っていた夢だもの。教えてくれたあなたにはすごく感謝してる。」

ふうん・・?と水泡が弾けた。

「リジーのことは、嫌い。だけど、この人を見捨てたら、あたしは自分がもっと嫌いになる。」

『ハ・・・!愚かな・・・その女は仲間でもなんでもないのに』

「・・・あたしは・・・人魚姫にはなれなかった。怖かったの、泡になって消えちゃうほどの、強い思いが。だけど、この人は・・・リジーは違った。」

なんのためらいもなく、彼女は手を離した。

愛する彼を、守るために。

「凄くキレイに笑ったの・・・・そんなの、もしキリクがひとりだけ生き残ったって、絶対彼は幸せになんてならない!そんなの嫌よ!もし・・・・ッ!」

魚影は静かに聞いていた。

「もし助けられるチャンスがあるなら、あたしにください。・・・お願い、このふたりを助けて。」

あたしは、キリクに助けられたの。

今度は、あたしが助けるんだ、絶対。
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