魚姫
せつない選択
魚影はしばらく黙っていた。

威圧的な沈黙に、身動きすらできない。

突然、海面が大きく波打ったかと思うと、グアァッと魚影が上昇しはじめた。

あたしはふたりに寄り添った。

たくさんの水泡が、魚影を包んで見えなくなる。

ブアッと水飛沫が飛んで、金色に光る人間の形をした魚が現れた。

「人・・・・魚・・・?」

『セイレーンとも呼ばれてるわね。違うけど。あたしは太古からの海の意思の欠片よ。』

海の意思。

『海を捨てた者が、身勝手に海を荒らす。それが赦せないでいる海の気持ちの化身。』

金の人魚はすいっとあたしの前を横切ると、ふたりに近づいた。

「あっ!」

『何もしやしないわよ。・・・男はともかく、女の魂は消えかかってるわね』

「そんな・・・ッ!」

キリクは・・・リジーをなくしたら、絶対に自分を赦せない。

『あなた、本当になんでもするの?』

ぐるりと。

振り返った人魚の目は冷たい。

正直、怖かった。

逃げ出したくなるほど震えてる。

このものの存在がそばにいるだけで、本当は怖くて怖くてたまらなかった。

だけど。

あたしは、リジーを抱きしめて離さないキリクを見つめた。

もう一度、笑ってほしい。

幸せになってほしい。

あたしだって、こんなにも。

こんなにも、キリクを愛してる。

リジーへの愛情ごと、キリクを愛したいと思ってる。

あたしは人魚の目を見返した。

強い、強い決意で。

人魚は一瞬、唇の端を上げて、笑った。

その瞬間、強い金の光があたり一面に弾けた。
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