魚姫
ああ、そっか・・・・。

あたしはできる限り体を捻って、自分の尾を見つめた。

あたしはもう、イルカじゃなくなっちゃってたんだ・・・。

涙が零れ落ちそうになる・・・気分だけだけど。

だって、あたしは魚だもん。

魚・・・・・。

あたしははっとして気合を入れた。

こんなことしてる場合じゃない。

約束を果たしに行こう。

キリクたちが本当に助かったかどうか、気にならないわけじゃない。

だけど、信じるしかないんだ。

この姿で危険を冒して彼らの様子を見に行くよりも、一刻も早く約束を遂げた方が、絶対にいい。

行こう!西の海へ!!

あたしは慎重に辺りをうかがうと、隠れていた岩場を飛び出した。

あたしがイルカだったとき、小魚たちはこうしてたっけ。

いつもぼんやりと海の中を見てたから、小魚たちがどうやって動いてたかがちょっとだけ分かる。

ひとりぼっちだったことが、こんなときになって役に立つなんて、ほんと未来って何が起こるか分からないもんね。

突然グアッと横潮が揺れてバランスが崩れる。

び、びっくりしたわっ。

ほんとに何が起こるか予想つかない。

今まで、こんなに潮の流れが複雑だなんて思ったことなかったもの。

体に慣れてないせいもあるんだろうけど。

小さい魚がすばしっこく、器用に泳いでるのを見て感心した。

他の魚を見て、勉強しなきゃ。

ところで、今あたしは何の魚なんだろう。

突然、グアッと魚の群れがやって来てあたしに叫んだ。

「おい、お前何やってんだよ、早く来いっ!」

「え?」

「逃げろ、まぐろが来るぞ!!」

キャーーーーーーーッッッ!!!!!

もの凄いスピードで追いかけてくる大きな影を見つけて、あたしは彼らと懸命に逃げた。

キラキラと翻る銀色のカーテン。

「・・・って、え、鰯ちゃん?」

「何言ってんだよ、お前もそうじゃん。」

えーーーーーっ、あたし鰯なのぉぉぉ?!

ちょっと、ひどいって、人魚ーーーーっ!!!!
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