魚姫
弱きものと強きもの
死にもの狂いとはよく言ったもんだわ。

ほんとに、ほんとに。

ほんとに食べられちゃうかと思った。

こんなに、怖かったんだ、お腹を空かせた魚に追いかけられるってこと・・・。

なんとか敵の攻撃を免れ、あたしは鰯達と一緒に海を渡ってる。

だけど、静寂を取り戻した今でも、心臓が破裂しそうにバクバクして、身体の震えが止まらなかった。

水のひずみに弾かれて崩れるバランス。

すると、すかさずマグロ達が狙ってくる。

だから、あたしは無我夢中で鰯の動きについていった。

周り込む魚、逃げる魚、どちらも必死さに変わりはない。

一糸乱れぬ魚群を乱してしまったら、鰯達共々あたしはマグロちゃんの口の中に吸い込まれちゃう。

こんなとこで、しかも鰯の姿で死んじゃうなんて、そんなのあんまりだわ!

・・・イルカの時は、こんな緊迫感に迫られたことも、死を身近に感じたこともなかった。

海はいつだってあたしに優しかった。

あたしの敵は孤独だけだって、そう思っていたのに。

今、あたしは海と闘ってる。

人魚の言葉が嫌になるほど、頭の中を駆け巡ってた。

怖い。

まだ旅は今からなのに、突然海がやたら広く恐ろしいものに思えた。

出来ることなら、安全な岩影に身を隠していたい。

群れから離れることがどんなに危険な行為なのか、身をもって知った。

だけど。

だけど・・・!

あたしは、心の中で眼を閉じた。

そして、嵐の海にリジーが、そしてキリクが落下してく悪夢を思い出した。

そうだ。

あれ以上に怖いことなんて、あたしにはないんだわ!
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