魚姫
・・・死ぬかと思った。

普段は来ない島の沖合いまで泳ぎ、息継ぎに上がった途端、あたしの目の前には大きな白い壁!!

それが猛スピードで迫ってくるもんだから、必死で跳ねた。

危うく天へ召されるとこだわ、全く、もうっ。

最近の人間達ときたら妙なモノに乗り込んでは、あたし達のテリトリーまで進出してくるようになった。

あんなに大きな住処を持っているのに、それじゃまだ足りないんだろうか。

行過ぎる大きな客船を見送って、人間の欲深さにため息をついた。

まだ、シャークの食いしん坊の方が、よっぽど可愛いものに思えてしまう。

仲間を探し続けてるあたしを別として。

海の中では、生きること、命をつなげていくことだけがすべてだ。

『人間とは、鈍感で、じつに哀しい生き物なのさ。』

ウミガメのババ様が言っていた言葉が、頭の中を何度もよぎっていった。

ほんとだね、ババ様。

懐かしい声が胸に染み込んで、きゅうっと軋んだ。

よく晴れた青い空。

あのときも、こんな風に波が乱反射してたんだ。

唯一話し相手になってくれたババ様は、もういない。

ずいぶん前に、大きなぐるぐる回る羽に巻き込まれ、粉々になってしまった。

あれからというもの、ずっと、ずっと・・・

あたしはひとりで生きてきたの。



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