魚姫
「なんだ、エライ可愛いのがいるじゃないか。」

あたしはぎくんと身体を震わせた。

後ろに、凄く嫌な気配がする。

あたしはテンパってもがいたけど、上がるのは水しぶきばかり。

どうしよう、ぼんやりして、浅瀬まで上がってしまってたんだ。

慌てて踵を返そうと尾を捻ったけど、針路を阻まれて身動きできない。

人間が近づいてくる。

殺される!

「ダメだよ、やめて。」

「坊ちゃん。」

バシャン

あたしとヤリを構えた人間の間に、小さな身体が滑り込んだ。

「イルカは食べないでしょ?逃がしてあげてよ。」

あたしは恐る恐る人間の子供の背中を見上げた。

あたし、・・・助かるの?

「坊ちゃん、こいつらはたまに漁場を荒らしたりもするんですぜ?ここは殺っておいたほうがーーー。」

「お前は狩りがしたいだけじゃないか。」

しばしの時が流れて、あたしの背中を狙う刃物が下ろされた。

「坊ちゃんには敵いませんねぇ。ほらよ。」

あたしの脇がすっと広くなり、視界にリーフが飛び込んできた。

「よかったね。・・さぁ、おかえり。」

少し進んで・・・振り返る。

と、そこには優しい目をした少年がいた。

あたしに手を振って、もう捕まるなよって。

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