魚姫
膨らむ想い
「お前、また来たのか?」

最初の頃は、何度も追い返そうとしていたけれど。

「しょうがない奴だな。」

あたしがしつこく顔を出すたびに、あきらめたみたい。

「ピーーーーーーッ!」

彼は海に来るたび、指笛であたしを呼んでくれるようになった。

これがね、ふたりだけの約束事みたいで、ドキドキした。

このリーフに住み着いて、早幾年。

あたしは一回り大きくなった。

勿論毎日の女磨きは欠かしてないから、スタイルは抜群よ。

おかげで、泳ぐ早さもさることながら、前にもましてお転婆になっちゃったかも。

彼の姿を見つけると、太陽に向かってハイジャンプするの。

そうするとね。

いつも眩しそうに右手をかざすんだ。

はみかむ笑顔が "可愛い" から "ますますドキドキするもの" になったのはいつからだっけ。

ほんとに、あっという間。

あんなにあどけなかったのに。

細く小さかった体はすっかり大人びて、白かった肌は飴色に艶めいている。

あたしは岩場にすいっと体を寄せて、キュッと挨拶して微笑む。

すると、彼は顔を近づけて、鼻先に軽くキスをくれるんだ。

彼に見つめられると、心が落ち着かない。

空の彼方まで飛んでっちゃいそうになる。

どんなに時が流れても、変わらないあの頃と同じ愛しいブルー。

毎日が楽しくて、嬉しくて、ふわふわしてる。

あの頃のあたしに教えてあげたいよ。

今感じてるこの気持ちを。



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