先生
「寒ないか?」
車が動き出してすぐ、先生はミラー越しに彩花を見て聞いた。
「あ、うん。全然あったかいです。」
車の中はポカポカしていて、流行りの曲ばかりが小さく流れていた。
こっそり、ミラー越しに先生をのぞいてみる。
そこに居るのは、いつもと変わらない“先生”で。
そして、そんな先生を見つめる彩花も、いつもと変わらない“生徒”を演じている、ただの生徒の一人で。
「先生、美羽が乗った時も、こんなんやった?先生はやっぱり“先生”で、美羽もただの“生徒”やった?」
と、
思わず口にしてしまいそうになった。
でも、声にしなかった。
開いた口をゆっくり閉じると、彩花は目に溜まった涙を、先生に気付かれないように拭った。