先生
現われたのは西本先生だった。
「あ、」
「あ!彩花、お母さん玄関やで」

え?先生わざわざ言いに来てくれたの?

「あ、はい」
彩花は返事をすると足を進めた。
先生は彩花の方を向いて待ってくれている。
なんだか、恥ずかしくて、嬉しくて、先生を見れなかった。
彩花が先生の所までたどり着くと、先生も歩きだした。
先生と二人きり、しかも先生は隣で、彩花の歩幅に合わせて歩いてくれている。
幸せすぎる状況に、彩花の心臓はドキドキしまくりだった。
薄暗い通路、玄関まではあと80mくらいしかない。
彩花はできるだけゆっくり歩いた。
時間が止まってほしいと、本気で願った。
ずっとうつむいていた彩花は、先生の顔をチラッと見た。

大好きで大好きで、どうしようもないくらい大好きな人が、今隣にいる。
腕が触れてしまいそうなくらい近くにいるのに、手を伸ばしても届かない大好きな人。


「彩花、学校楽しいか?」
突然話掛けられて、彩花は先生に向けていた視線をパッとそらした。
「た、楽しいですよ!まあ、今はみんな受験でピリピリしてる所もあるけど」
彩花は苦笑いをしてみせた。
「まあ、確かになあ。受験生やでしゃあないな」
「うん。あ、先生」
彩花はあることを思い出した。
なるべく今月中に先生に聞いておかなきゃいけなかったこと。
「何?」
「あの、先生って甘いもの好きですか?」
「めっちゃ好き」
笑顔で答えた先生にキュンとした。
そして、“好き”という言葉。
甘いものが好きという意味の“好き”なのに、すごくドキドキした。
「てか、突然なんやねん(笑)」

先生はわかってないのかな。
もうすぐバレンタインデーだってこと。

「別に〜。ただ聞いただけっ」
「なんやそれっ(笑)」
先生は笑って言った。
その笑顔に、また胸がぎゅっとなる。

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