Azure Music
教室の中に入ろうとした瞬間、
「零!さゆ!」
呼ばれて、二人で振り返った。
「…直希」
「おー直」
二人の反応はほぼ一緒で、え、と零は私を見た。
「知り合い?」
直希は満面の笑みで頷く。
「久し振りさゆ、2年振り?
お前が教室辞めたからみんな大騒ぎしてたんだぜ」
久し振り、て、そう言いたかったのに私は声に出なかった。
嫌な記憶が甦る。
「元気だった?てか同じ学校とかマジ嬉しいわー。
辞めてから心配で、俺連絡先聞いとけばよかったって思ったし」
「………」
「今はどうなの?まだ音楽続け」
「───やめて」
その話は、いや
直希は驚いた顔して、零は疑問符を頭に浮かべたような顔をする。
思い出す
ピアノ、拍手、男の子、指、ピアノソナタ、才能、ノクターン、失望、溜め息、カメラ、インタビュー、お母さん、最優秀、笑顔、賞状、大きな手、指、指、指────
────『川村零』──…