Azure Music
私はあの時、する必要もない緊張をして、
『ノクターン 作品9-2』
あれほど簡単だと思っていた譜面が、ピアノを前にした途端真っ白になった。
そして、初っぱなに1オクターブ高く弾き、そこで我に返った時はもう遅かった。
あとはもう覚えてない。
ただ、頭の中ではずっと、あの男の子の力強い指だけが何回もリピートされていた。
だから嫌だったんだ、コンクールを公開するのは。
必ずカメラがくる。
ちょっと有名なコンダクターである父親が毎回少し自慢気にインタビューを受ける。
それに付き添って、ちょっと有名な作曲家の母親も自慢気に私のことを話す。
私の娘の晴れ舞台だわ
あの子が最優秀をとる姿が目に浮かぶ、と。