Azure Music
そして、あの男の子は、力ずつで最優秀を勝ち取った
モーツァルトのあの早い曲を、男の子は簡単に弾いていた。
いや、実際は苦労してたのかもしれない。
だけど、そうは思わせない程のテクニックがあった。
私は、負けを確信していたんだ。
あの指には敵わない
欲しい、あの指が
そうずっと思っていた。
両親も男の子のことは凄いと思ったみたい。
『川村零』
名前まで覚えておいてるぐらいだから
その子の今を親は調べたみたいだが、何にも引っ掛かりはしなかった。
プロの道にも進めるぐらい素晴らしかったのに。
両親は、今はかなり有名な人間になっていて、私の存在は尚更消えていった。
夫妻で音楽業界を仕切るコンダクターと作曲家
そうテレビでは言われている
素晴らしい音楽の才能を持つ親に生まれた私には、業界で活躍するほどの才能なんてなかったんだ。
14歳までの間、ああやって自分の姿をテレビで確認するという行為を、何故怖がらなかったんだろう。
今の私には不思議でしょうがない。
あの頃の私は、きっと自意識過剰だったんだ
多分心の中にプライドとしてあった
私は有名な両親をもっていて、自分も少なからず才能が溢れていると
私のプライドを崩すには十分すぎるあの男の子は、本当に光で輝いていた。
私の音楽なんて誰に届くというのだろう
輝くのは所詮光を持っている人だけなのだから
私にはそんな輝く要素なんて持っていなかったんだ
──────Azure Music……