Ghost
大きな通りを左に曲がれば、月明かりでしか照らされない道が先へと続いた。
静かなその通りの小さな木からは、弱々しい蝉の声が聞こえてくる。
いつも通るこの暗い道が、まるでこれから先に訪れる闇の世界と重なり、少し皮肉な笑みが浮かんだ。
月が照らしているだけ、全然いい。
自分はきっと、もっと暗い世界へと落ちていくのだろうから。

この世界に、何か未練があるわけでもなかった。
すべてが平行線上にある日常の中で、未来に何か希望や夢を持っているわけでもなかった。
大学を卒業した後は就職、人並みに出世して、結婚して、そんなありきたりの将来像しか浮かばない。
だけど、そのありきたりでよかった。
視力を失うということは、普通ではなくなるということで。
普通でなくなれば、そんなありきたりな人生すら送れない。

それならばいっそ死んだほうが楽なんじゃないか。
不便さと絶望ばかりが浮かぶような未来ならいっそ。
そんな思いすら芽生えてしまう。
それが怖い。
死ぬ覚悟なんてないくせに、その思いに支配されてしまいそうな自分が居るのは明白だった。
だから余計に手術が失敗することを恐れているんだ。
何もしなくても、同じ未来が来るっていうのに。

自分が何を考えているかさえ分からないくらい混乱していた。
ただ月の光だけを頼りに歩き続けるのが精一杯だった。
誰かに相談しようにも、深く心を許せる相手が居るわけでもない。
相談したとしても、答えは分かっている。

分かってはいるんだけど。

拭いきれない想いを拳で握り締めた。
下唇を噛み締めると、やりきれない思いだけがざわめく。
どうして自分が。
そんなどうしようもない言葉しか浮かばなかった。
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