ひまわり
「…ん?これは?」
掌を見てみると、写真だった。
小さい頃のあたしと、お父さんと、お祖母ちゃんと……
見覚えのあるような女の人。
「あなたと祥介とお祖母さんと…」
少し言葉に詰まる。
“この女の人って誰?”
と言葉が喉まで出かかったけれど
我慢した。
聞いたらいけないような気がして…
「私、そろそろ行かなくちゃ…」
「え?じゃあ…あたしも」
「あなたはダメよ」
橋を越えようとした時、
女の人があたしを抑えて
菜の花野原へ引き戻す。
「…なんでですか…?」
どうして、行っちゃいけないの…?
不安になって訊ねてみる。
「あなたにはまだ…
助けてくれる人がいるでしょう?
頑張って。汐莉ならできるわよ」
女の人は笑顔でそう言うと、
あたしに背を向けて歩き出した。
待って……
まだ聞きたいことがあるの…!
「あのっ……!!」
遠ざかる背中に叫ぶ。
女の人の歩く足が止まって
あたしの方に向き直る。
「なにかしら…?」
柔らかく温かい、ひだまりのような声があたしの胸に響く。
「名前……!!教えてください!」
せめて…名前だけ教えてください…
他は知らなくていいから
「名前…?そんなもの…
とっくの昔に忘れてしまったわ…
汐莉、幸せになるのよ?」
そう言う女の人の瞳から
大粒の涙が零れ落ちた。
追いかけようとして走り出した瞬間―……
「…汐莉……!!」
聞き覚えのある声があたしを呼んだ。
振り返ると健が手を振っていた。
戻らなきゃ―…
でも、女の人が……
揺れ動くあたしの心
「汐莉…!!」
気付けば名前を呼ばれた方に
走り出していた……。
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