ハリケーン
『SurfShop・波乗り屋』

海面上昇の続く異常気象の中で、海洋レジャーが一躍注目を集めていた。

勇次と呼ばれた男の経営するこの店は売場面積100坪もあり、この町一番の大きなものだった。

店内には色採りどりのサーフグッズが綺麗に陳列され、カリフォルニア直輸入のサーフボードの品数も随一だった。

店の裏は小さな工場になっており、オーダーメイドのサーフボードにも対応出来るようになっている。

工場には鎖に繋がれたドーベルマンの『タロー』が睨みをきかせていた。普段はとても大人しいが、一度(ひとたび)の号令で牙を剥く、頼もしい家族の一員である。

『SurfShop・波乗り屋』の横に隣接された『Cafe・海の家』は勇次の妻である沙希がママとして働いている。
人気メニューはシーフードを使ったオムレツとパスタ。
夏になればかき氷やパフェと言ったサイドメニューも充実してくる事だろう。








「おはよう沙希ちゃん。あれ?海人(かいと)は?」

『SurfShop・波乗り屋』の2階の居住空間のリビングダイニングに千尋が入って来る。テーブルには既に沙希が座っており、勇次はカウンターキッチンの中で牛乳を温めているところだった。

「おはよ千尋。海人なら洗面所よ。髪型がきまらないんだって、ドライヤーと格闘中」

「ひゃあ…色気づきやがって。今日だっけ、中学校の入学式」

「そうよ。今時詰め襟の学生服も珍しいわ。こう温暖化が進んじゃ、一年中アロハで過ごせるのに」

「だよねぇ、桜なんて1月に咲いて散っちゃうんだもん…。風情も何もあったもんじゃないよね」

テーブルを挟んで向かい合った沙希と千尋は純和風の朝食を摂りながらの会話を続けていた。

今日も4月とは思えない程の太陽がビーチを照らし始めている。








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