ハリケーン
「忙しいのに悪いね、姉さん」

那比嘉産業ビルの最上階。社長室に勇次はいた。

姉である那比嘉産業の社長、原田真理に面会をする為にランクルを2時間走らせて街までやって来たのだった。

「久しぶりね、勇次。千尋は上手くやってる?海人は?」

春らしい薄い桜色のスーツに身を包んだ原田真理は、今まで手に持っていた受話器を充電器に立てかけると、勇次の待つソファーへと移動して来た。

「千尋は大丈夫だよ。アレはもう自立した一人前の女だ」

「そうかしら?まだまだ子供なんじゃないの?」

勇次の対面に座った真理は居心地が悪そうに脚を組みながら言う。
千尋を勇次夫婦に預けているバツの悪さが顔を覗かせたのだろう。



「姉さん、今日は――」

「うん、分かってる。うちで手掛けてるリゾート開発の件でしょ?勇次には悪いけど、その件に関しては引く事は出来ないの」

「頭ごなしに引けとは言わない。でもやり方が少し強引なんじゃないか?札束で人の頬を叩くようなやり方はオレには納得いくもんじゃない。そんなにまでしてあそこにホテルを建てる意味があるのか?」

真理は「そうね」と言った後、おもむろに立ち上がり、勇次の隣へと移動する。

ソファーに腰掛けると小さな声で耳打ちをするように勇次に話しを始めた。



(岬建設がね―――)



(そうなのか?――)



(私ものんびり出来ないの――)








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