パラドーム
 ☆ ☆ ☆
 過去その十
 彼は、病院通いを余儀なくされた。学校は辞めさせられ、やる事も無く、ただ一日が過ぎていくのだ。
 平日は、知り合いも学校。休日は、部活、学校の友達と遊びに行く、云々。
 ただ、彼にとって救いだったのは、小学校からの付き合いである二人の親友の存在であった。
 親友二人は、事あるごとに彼を誘い、ひねくれて痩せこけた彼を連れまわし、ゲーセン、酒遊び、強いては無免許でドライブ。煙草もその時に覚えた。
 彼は、大いに救われ、彼本人もバイトを始め、若いなりに社会と向き合おうと決心する。病気、耳鳴りは何時でも隣で出番を待ちかまえていたが、二年間、時折来る不安に煩悶しながらも、このままならば何も言うまい、と。



 だが、十八歳になる前日の事である。
 彼は、その時勤めていた靴屋のバイトも終わり、帰りしなに携帯を開いたのだが、矢鱈にメール、着信が入っていた。
 彼は、自転車に乗りながら、電話を掛ける。
 そして、その内容にただただ驚愕した。
 ……今、街のヤクザ者に追われている。もう一人も一緒なんだ。なあ、楽人、俺達と一緒に来てくれないか。……なあに、二、三ヶ月間、俺の親戚の旅館で暮らそう。なあ、また向こうで仲良くやろう。そう言った旨の、短い電話。
 彼は、その申し出に、二つ返事でオーケーを出した。
 そして、自転車で家に帰り、リュックサックに少ない衣服を入れ、MDプレイヤーを小さなポケットに突っ込み、朝方を見計らって家を出る。
 約束は、近くの病院の待合室に、午前六時集合。
 彼は、その病院を素通りし、ある場所へ向かった。うらぶれた、地元の駅。彼に迷いは無かった。勿論だが、正常でも無かった。既に、約束すら頭に入ってはいない。
 彼の頭にあるのは、――何故? 

 ――気付けば、駅のホーム。彼は呆然と立ち尽くしていた――
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