パラドーム
 ☆ ☆ ☆
 過去その四
 彼はまた素知らぬ大地に立っていた。
「またか」 
 彼はもう混乱する事はなかったが、あまりにも馬鹿げている。彼は自分の現状を整理してみようと試みた。



 一、気付くと、どこか分からない場所にいる。
 二、自転車や電車で行動しているらしかったが、その間の記憶がない。
 三、家だろうが、学校だろうがお構いなし。
 四、時には軽く目を瞑っただけでも知らないところに飛ばされる。
 五、それが原因で、僕は苦しんでいる。



 彼はそれだけを頭の中でピックアップすると、こめかみが痛くなってきたのでとりあえずそこで止めた。
 ごくごく控え目に言って、狂っている。彼には多重人格という言葉が過ぎったが、考えるのを遂に放棄した。
 どちらにしたって頭がおかしいという事には変わりはない。
 彼は自転車に乗ると、――今日は自転車バージョンらしい、知らない街を駆け抜けていく。
〔戻ったって、気付かなければ〕
「……?」
 彼は何かが聞こえたような気がしたが、彼は気にもせず、変わりゆく眺めを足早に去っていった。
 彼にはまだそれは聞こえていない。
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