パラドーム
 彼女は暫くうんうんと唸っていたが、結論は出たらしく、「昼はお家でいいか」、と独り言の様に漏らし、立ち上がった。
「じゃあ今から作るね。あ、コーヒー飲む?」
「うん。あ、砂糖だけでいいよ。ミルクはあまり好きじゃないんだ。」
「大人ぶっちゃって。かーわいい」
「…………」
 彼女はそう言うとコーヒーを容れて持って来てくれる。
 彼はコーヒーを受け取ると、朝の朝食を思い出したが、それは満更コーヒーだけの所為でもない。
 ……もしかして? 彼はキッチンに戻って行った彼女を追っていって、彼女の調理しているものを見たのだが、そこには朝に作ってくれたものと同じ存在。
 二人は、フライパンの中をこれからグァムとでも言いたそうな面持ちでゆっくりとクルージングしていた。
「ごめん! 卵とハムしか冷蔵庫の中に入ってなくて。あ、でも今度はご飯と一緒だから似て非なる物よね! 買い物行かないと……」
「別に大丈夫だよ。凄く旨かったし。あ、ご飯よそっとくよ?」
「うん。ありがとう!」
 彼女は朝も昼も同じ主菜だという事に、少し罰が悪いと言う顔をしたが、直ぐに笑顔に変わった。
 彼には主菜なんて何だって良いのだ。三日三晩出たって構わない。流石にもう大地が裂ける事は無いだろうが。
 彼が、朝の妄想を引き続き脳内具現化しながらご飯をよそおうとしながらも、彼女に、ふと「茶碗もうひとつある?」、と尋ねると、彼女は何故だかモルヒネでも打ったかの様な挙動不審さで目線をあちらこちらに投げ掛ける。何処から見ても子供にしか見えない。
 そして、ちょっと困った顔をしてから、怖ず怖ずと戸棚から出した茶碗を彼に渡した。
 それは、小さめの一対の茶碗だった。柄は二つとも一緒で、申し訳無さそうに色だけが青とピンクに分かれている。
 どう見てもペアの茶碗である。彼は彼女に「この青い方は誰の?」、とでも聞こうと思ったが、やはりそれについては何も触れないことにした。
 彼女の動揺は彼にも見て取れたし、あまり散策するべきではない。直感的に彼の心はそう訴えていた。
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