パラドーム
 彼に予定はない。
 彼は気が付くと、何をするわけでも無く昔、と言っても十年も二十年も前の話でも無いのだが、駅を出て、友人達とよく練り歩いた繁華街に足を向けていた。
 この繁華街は駅から少し離れた所にあるのだが、よく皆で闊歩していた場所だった。大概の所がそうであるように『~通り』が付け加えられている。
 昼時にもなっていて ――そう、今は昼なのだ。小腹が空いた彼は、通りのほぼ中央に位置するハンバーガーショップに入っていった。
 0円スマイルもまともにくれない店員を相手に、仰々しく掲げられたセットを注文をして二階に上がると、平日にも拘わらず、割合に混み合っていた。若いカップル、友達同士と、様々な男女が、埋まった三分の二の席で、話に華を咲かせている。
 正直こんな中で昼ご飯を食べるのは億劫だったが、仕方が無いとばかりに彼はちょうど空いていた窓際の席に腰を下ろす。そして、目の前のそれを、空腹に任せて食べ始めた。想像は付いていたが、味気ないものである。
 バーガー、ドリンク、ポテトと、均等に片付け、兎に角、ジャンクフードを食べ終わる。
 そして、喧騒を嫌い、さっさと出ようと重い腰を上げようとした、その時。
 隣から、人の目もはばからず、大声で話す男女の声。
 余りの賑やかさ。気にもなったので暫く耳を済ましてみると、どうやらそれは映画の話らしかった。
 一見高校生にも見えるカップル。彼等が話してたのは、今やっている国民的アニメ映画の話である。彼は、そのアニメーション映画を作っている会社の作品を概ね観ている。
 子供の頃には、夏休み企画と銘打って放映されていたその映画を、眠たい目を擦りながら頑張って観たもの。何故眠たいのかと云うと、その映画は、金曜日、しかも、必ず九時からだったのだ。夜のである。
 何にせよ、彼は暫定的目的を獲得。
 自分に言い聞かせる様に小さく頷くと、食べたものを片付け、足早に店を後にする。
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