パラドーム



「ねえガク。美味しかった?」
「うん……。とても美味しかったです……」
 彼がそう言うと、彼女はニッコリと笑って片付けに入った。
 彼女は料理に自信があるが故に、彼が料理を残すのを徹底的に糾弾するきらいがある。
 彼は食わず嫌いが多く、食べたくないものは一切食べない質だったが、彼女の調教もあり、幾らか減っては来ている。ただ、ブロッコリーを除いての話。彼はどうしてもブロッコリーを好きに馴れない。
 彼は今日もブロッコリーを激しく憎んだ。後、カリフラワーも許せない。彼は隙あらばまるで関羽を斬られた劉備の様に呉……ではなくその兄弟を憎んだが、兄弟は彼の怒りには何の気にもしていない様だった。今日もこうやって平然と出て来ているのだ。あいつらなんかキャベツのままで良いと言うに。
 彼が不毛な戦いに身を投じていると、片付けを終わった彼女が口を開いた。
「よし! 食べたことだし、この周りでも散歩しますか!」
 彼はまだその兄弟を謗り足りなかったが、取り敢えず頷いておく。時間はたっぷりある。そんな事を考えながら。
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