パラドーム
 そして、彼女は彼の胸に抱かれながら、ゆっくりと、我慢強く事の経緯を説明した。
 彼女の言葉は何時もとは違い、余りにもか弱くて、聞くのには随分と骨が折れた。しかし、大体はこんな内容だったと思う。
 その後、親戚が来て、葬儀やら手続きやらは彼等がやってくれたという事。母は出ていって元から居なかったという事。親戚が『家に来ないか?』と言うのを丁重に断った事。その親戚に家は譲り、その代わりに父親が自らに掛けてあった保険金を全額戴いた事。この街が辛くて今のアパートに移り住んだ事。そこから学校に残りの半年間頑張って通った事。卒業した後は就職もせず、スーパーと家の往復しかしなかった事。
 そして……。
「……それでね、その日は状とお父さんの命日だったから、この街にあるお墓に花を飾って、そして、アパートの近くの商店街に気晴らしに行ってみたの……。ほら、命日だったから何処かで見てるかも知れないじゃない? だから、私はこんなに元気だよ? だから心配しないでって。そういうつもりで……。けれど、結局何もする事なくて、街をぼーっと眺めてた。そして……、ガクを見付けた……」
 彼は、彼方にちりばめられたピースがひとつに集結されていく様を感じる。
「ガクはジィーッと下を向いてて、何かを考えている様子だった。私も一度はゲームセンターを出たんだけど、どうしても気になっちゃって、また戻ったの……そしたら、まだ居るじゃない。それで、声を掛けちゃった……」
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