パラドーム
 ☆ ☆ ☆
 過去その七
「んっ……。あれ、此処は……?」
 彼が目を覚ますと、眼前にはライトブルーの天井がある。自分の家とは違うそれに、彼は跳ね起き、周りを見渡したが、そこで自分が何故此処に居るのか思い当たった。
 彼は、業務用のベッドにばさっと寝そべると一息漏らす。
 青い天井……。それには心を安らげる効果があると言われているらしいが、彼はカオスの中心、核に居た。
 混乱。その先をふと見遣るは、拒食症の判例の如き細腕。そこに刺された異物。更にその先には、リズムを打つ水滴と共に、彼に取って見下された感のある物干し台的何かがあった。
 顔を歪ませる彼の事を知ってか知らずか、実にタイミング良く来訪者が横開きのドアを開けた。
「……? あらぁ。目を覚まされたんですね、高宮さん。よかった。あ、今先生を呼んできますね?」
 そう。此処は病院。彼は駅で力尽きた後、こちらの病院に運び込まれたのだ。看護師が踵を返し去っていくのを見届けた彼は、先程より深い溜め息を漏らす。気分が悪い。吐き気がする。最後に食べたあんパンさえ、戻り来る様相。そんな物、等に消化してると言うに。
 先程の看護師がドアの音と共に恰幅のよい、幾分背の曲がった先生を連れて来る。
「高宮さん。目を覚まされたんですね。いや、三日も目を覚まさんもので心配しておったんですよ。あ、今家族の方にご連絡差し上げたら、直ぐ来れるようでしたので、少しお待ち下さい。おぉーっと、少し検診しますね」
 主治医だろうか。彼は頷くと、『吉田』と書かれていた名札を見ながら、眼前の先生の指示に従う。
 ……学校は、やばいだろうな。彼は、前開きである寝巻のボタンをひとつひとつ外しながら、静かな諦念に準じていった。
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