パラドーム
 だが、彼は神を否定しているという事ではない。
 現に彼は、未だにその存在を自らの思想で逐一出させるし、彼にだって藁にも縋る思いで祈りたいと思う時はあった。
 ただ、彼が感ずるは、現時点で、視覚的にも聴覚的にも、はっきり言えば現実的にもそれを携えることは不可能という事なのだ。そんな事は当たり前だとは思うにせよ。
 信仰が心の拠り処、それのみの効力で以って掲げられる場合では、その限りではない事も分かっている。
 しかし、どうしても。信仰と存在は、全くの別物。それがどちらかに付随する事を彼はただただ許せない。信仰の先にある諦観を些か彼は見飽きている。
 そう、それが自らの狭い世界に於けるひとつの定義なのだと、彼の心は信じて疑わないのだ。
 そして、それは今日も彼の心を侵食していく。
 仕様がない。相反する思いは、迷宮の様相を呈している。
 いや、それはもはや迷宮とすら言えない。
 ただただ出れない部屋。
 彼女も一人佇むその部屋。
 ……そして、僕にも?



 白昼夢。
 彼は久しぶりと認識している激しい頭痛を、頭を振る事で無理に忘れさせ、然る後に、煙草をくわえてそれを吸う。
 無意識のうちに時計を見て、少しばかり彼は驚く。
 ……十一時?
 どうやら本当に寝ていたのだろうと、彼は思った。やはり、額にはびっしりと汗を掻いていた。
 彼はぼぉーっと考えていた事を思い出そうとしたが、何だかそれもどうでもよくなり、立ち上がってキッチンに向かう。
 そして、昨日スーパーで買ったクリームパンを一瞥し、五百ミリのサイダーを冷蔵庫から取り出して、コップも使わずにそれをぐいぐいと飲んだ。
 それを開けっ放しの冷蔵庫に戻し、グローブ型のそれを掴んでリビングに戻る。
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