パラドーム
 出来上がるまで五分間の時。その時間を彼等はテレビを観る事で潰す。
 ベッドとキッチンの中央に位置して壁に寄り添っているそれは、二十インチの旧型な分厚いものだ。リモコンが生きているというだけ儲けもの。
 そのぐらいしか感想が出てこない、分厚い癖に、存在に関してはまるで否定的にならざるを得ないポンコツを観ていると、そこには黒眼鏡の司会者と、数多のバラエティータレントが、仕様もない事で盛り上がっていた。
 一人の女性タレントの高らかな笑い声に興が覚めた彼は、三分と経ってないそれを自分の箸で混ぜ合わせる。
 やはり、それはまだ固いもので、彼はやれやれとばかりに彼女を見つめた。
 綺麗な横顔。
 通算何度目なのか分からないそれに、今日も彼は目を離せないでいるのだ。
 瞳は、熱のせいか、無駄に水分を保有しており、今正に零れそうでもある。
 彼は黙考する。
 熱を出した女というのには、第三者に対して被虐を駆り立ててしまう何かがある、と。それは、酒を飲み過ぎて吐いている女性を見るのも同じ。
 自分が何をしたという訳でもないのだけれど、何故だかその儚い姿が、無言のストライキである様に彼には感じられるのだ。何故だかは分からない。やはり、何故だかは分からない。
 目線をずっと彼女の潤んだ瞳に投げ掛けていた為、こちらを見た彼女と不意に目が合う。
「なぁに、ガク? 私の顔に何か付いてた?」
 少し霞んだ声。彼は慌てて眼前のそれの固さを確かめ、そして、上擦いた声で言った。
「もう、出来たみたいだよ」、と。
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