パラドーム
……やる事が無い。
彼は思った。
何故なら、昼食を食べ終えて彼女に薬を飲ませた後、頭を撫でて寝かし付けたその足でキッチンの鎮静化を計り、やるべき事をやった達成感と共に時計を見遣ったのだが、まだ二時だったからである。
彼女はすやすやと寝息を立てている。
熱がこのまま下がってくれればいい、と考える事さえ等にやり尽くした感はある。
彼は、流石に彼女を見つめ続けるという下手をしたら愛でるを通り越してストーキングや、更に不可解な異常思考に分類されそうなそれも止め、買ったばかりなのに端がもう擦り切れている文庫を読み始めた。
その文庫は、遥か二十年も前に発行された、今は果てしなく有名な作家の初期の作品。
軽いタッチで書かれつつも、しばしば内容は難解であるといわれている作家ではあるが、正にその短編集も例に漏れなかった。
彼は、一見では不可解なその内容を、何度も繰り返して読む事により、何とか内容を把握してやろうという何とも稀有な性格の持ち主だったので、その日もやはり、リスタートを切っていたのだ。
少し疲れていたのかも知れない。そして、然る後に眠った。