最後の春
新しい朝

始業式

裕(ゆう)くん、また会えるよね?」

荷台に家具を載せた軽トラックの助手席から少女が泣きそうな顔を出している。
たくさんの見送りに来た人の中で一人の少年が頷く。
「美樹(みき)そろそろ行くぞ?泉(いずみ)君、美樹と遊んでくれてありがとう」
少年にお礼をした父親が少女に告げ、運転席に乗り込み車が動き出した。
少女は助手席から精一杯の笑顔で手を振りつづける。その顔には涙を浮かべながら。
少年はただその光景を眺めることしか出来なかった。言いたい言葉も伝えられずに・・・・。


ジリリリリリリリリ!!!!
ベッドの横に置いてある目覚し時計が自分の持てる限りの力を最大限に発揮し騒いでいる。
裕は無視を決め込め蒲団の中に潜り込む。あと5分だけ幸せな気持ちでいたい。
しかし、そんな切なる願いも一瞬にして打ち砕かれる。

「裕!!あんた早く用意しないと遅刻するわよ」

母親昌子(まさこ)が部屋に入るなり窓を全開にして蒲団を剥ぎ取ろうとする。
Tシャツに短パン姿の裕は最終防衛線だけは取られまいと、しっかりと握っていたがあっという間に最終防衛線は突破されてしまった。

「あんた今日から高2でしょ?少しは手がかからない子になりなさいよ」

毎朝繰り広げられるやり取りに呆れた顔で昌子がつぶやく、

「はいはい、用意するから早くいけよ」

二度寝への夢が断たれた裕はベッドから起き上がると昌子を部屋から追い出し窓から外を眺める。始業式には最適なほどの快晴だ。と、こんな眺めているほど余裕をかましているわけにはいかない。急いで学生服に着替え1階に向かうと、昌子はいつものように朝食を用意してくれている。テーブルには父親光司(こうじ)が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。光司は規則正しい生活をするのでいつも決まった時間で行動する。裕からしたら規則正しすぎるのがつまらないと思えてならないが夫婦仲は良いので昌子には不満ないのだろう。

「裕、やっと起きたか」

裕の姿を見るや否や光司は新聞を自分の脇に置き朝食の食べ始めた。これも、毎朝の決まった行動のひとつだ。

「おはよう」

特に親と会話することが無くなった裕は最低限の挨拶を済ませるとテーブルに置いてあるパンを取り玄関に向かう悠長に親と食事する暇は無い。
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