最後の春
「裕、今日はバイト?」
「いや今日は無いけど、何かあるの?」
「今日優美(ゆみ)を迎えに行って。部活なのよ」

妹の優美は中学2年でバレーボール部に所属している。練習が厳しいらしく帰るのが夜になるのもザラだ。

「お願いね。最近物騒だから」

昌子はそういうとハンカチと1000円を渡してきた。これで時間をつぶせと言う意味らしい。

「中2だから大丈夫だと思うけどな。まぁ行ってくる」

庭に置いてある自転車にまたがり最寄りの駅である弥生駅(やよい)へ向かう。朝は様々な人が駅へと向かっているので人が多い。駐輪場のおっちゃんに軽く挨拶し急いでホームへ走る。今ならいつも乗る電車より1本早く乗れるはずだ。予定通り1本早く電車に乗れただけでも気持ちに余裕が生まれる。たかだか5分の違いだがこの5分が裕にはでかい。裕が通っている矢ヶ崎(やがさき)高校へは一度、二ヶ領(にかりょう)駅で矢ヶ崎線に乗り換える必要がある。なんでも昔、江戸時代に用水路があったらしい。この辺りで一番栄えておりデパートなども出店している。二ヶ領駅に着くと同じ学生服を来た見覚えがある男が電車を待っていた親友の長原隆司(ながはらりゅうじ)だということはすぐにわかった。

「隆おはよう」
「おはよ。今日は早いじゃん」
「今日は二度寝しなかったから」
「納得」

長原とは小・中・高と一緒の親友なので大体の行動は一緒だ。下手したら光司より裕を理解しているかもしれない。矢ヶ崎高校がある矢ヶ崎駅へ向かう通勤客や通学で人が多いなか運良く座れた電車の中

「今日、久しぶりにアノ夢を見た」

裕が前を見ながら言った。

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