最後の春
「みつけた?」

長原がすぐに反応した。

「あなたはコイツのことを知ってるんですか?」

すると、なだめていた女のほうも驚きを隠せなかった。

「みっちゃん、知ってる人なの?知人なら教えてくれてもよかったのに~」

安堵の表情を浮かべる制服女性。すると、

「名前と昔の顔だけね」

席に立ち上がっていた「みっちゃん」は(ふぅ)と一息つくと裕の顔を見ながら

「君、泉裕だよね?私は君のことを知っているよ」

とだけ言い席から去っていった。その後を追うかのように制服女性は裕たちに会釈だけすると後を追いかけた言った。裕は思考が停止してしまった。「みっちゃん」と呼ばれるその人は俺のことを知っている。でも俺には面識がないし、見たことがない。学校でも見たことがないと思う。可能性があるのはバイト先のお客さんだがフルネームで知られることはない。
裕はただ、去っていく二人の姿を追うことしかできなかった。

「泉ちゃん知ってる人?」

店から出た二人を確認して土田が言った。

「いや、全然知らない人。あったことないと思うよ」
「でも、あの人泉ちゃんの名前知ってたぜ何でだろ?」
「いつも一緒に裕といるが俺も面識がない」

長原にも面識がないらしい。すると

「今度聞いてみようぜ」

突然、土田が言い出した。

「聞いてみるってどうやって?名前も知らないんだぜ?」
「また同じ時間帯に来てみるとか」
「たまたまかもしれないし、難しいと思うぞ。それより隣にいた制服の人はウチの学校の人なんだからその人を探して聞いたほうが早いと思う」

長原が提案した。

「さすが長原ちゃん。頭良いねぇ」

土田が感心すると

「可能性が高いほうが面倒じゃないだけさ。気味が悪いが無視する手もあるけどな」
「いや、無視はしない。とりあえず明日探してみる」

裕は無視するのだけは嫌だと思った。現状では長原の意見がベストなのだろう、裕たちは探す手立てを話しながら優美を待つことにした。
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