最後の春
そのあと長原の家で映画の話をし家に帰ってきた裕と優美は家の電気がついていることに気がついた。この時間だと光司が帰ってるはずだ。ドアを開けると予想通り光司がリビングでビールを飲んでいた。

「飯食ってきたのか?」

光司は裕たちが長原の家に行くことを知っていたみたいだった。昌子から連絡でもきていたのだろう。

「食べたけどそっちは?」
「新卒のやつらと食ったから」
「そっか」
「パパお疲れ様」

光司との会話は裕は苦手としている。その点優美は対応がうまい光司はうれしそうな顔をしながら

「ありがとう。お前たちに謝っておきたいことがあるんだがGWは小遣いあげるから各自行動しなさい」

と言った。GWの時に泉家ではどこか旅行に行くことが通例となっている裕はバイトの時給があがるから本当は行きたくなかったのだが仕方が無く去年は参加した。だから光司が言ったことに裕はうれしくなった。

「え~なんで!?」

優美は明らかに残念そうな顔をしている

「GWのときに出張が重なってしまったからごめんな」

光司は裕たちに謝る。

「出張ってどこ?」
「夢ヶ咲の近くだ」

夢ヶ咲。海がそばにあって夏になると観光客で賑やかになることはニュースで見たことがある。裕たちが住んでいる弥生からはかなり離れている。

「夢ヶ咲?いいなぁ~パパお土産よろしくね」
「ああ、ちゃんと買ってくるよ。そうだ、裕。」

優美の機嫌が直ったことに光司は安堵の顔をした。部屋に行こうとした裕を光司は呼び止めて

「夢ヶ咲で懐かしい人と会うぞ」
「懐かしい人?」
「長野さんのお父さんだ」
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