最後の春
教室に戻ると桜井はまだ来てない様だった。

「セーフ」

教室に入るなり土田は裕たちに告げると急いで自分の席に座った。裕と長原も席に着くと桜井が一人で入ってきた。どうやら先に出席をとってから転校生を紹介するらしい

「では皆には昨日話したと思うけど今日から新しくクラスの仲間になる人を紹介します。どうぞ入って頂戴」

桜井に促されてドアの外で待っていたのか転校生がドアを開けた裕は興味を持ってなかったので光司に頼む言葉を考え込んでいた。

「みなさん初めまして、宮田といいます。仲良くしてください」

転校生と思われる声が聞こえる…がどこかで聞いたことがある声と名前だ。裕は教壇に眼をやると思わず

「あ!!」

という声をあげた。そこには宮田千夏が立っていたのである。土田を見ると土田は宮田に指を刺しながら言葉が出ない様子だった。長原を見ると長原は裕の顔を見ながら笑っている。宮田も裕の顔を見て笑っている。

「泉、宮田さんと知り合い?」

桜井が聞いてきた。

「知り合いというか…まぁそうです。知り合いですね」

裕は昨日の西山の件を話すわけにはいかなかったので適当に答えた。

「知り合いなら案内は泉が適任じゃね?」

後ろに座っていた岡本が提案する。

「泉、宮田さんの案内頼んだ。」

桜井も岡本の提案に乗る。裕には了承するしか選択肢がないようだ。裕がわかりましたと言うと

「よろしくね。泉君」

宮田は昨日とは豹変したようで泉君などと呼んできた。HRが終わり宮田の周りには転校生に興味を持ったやつらが集まってきて宮田を質問攻めにし宮田は笑顔で答えている光景を裕たち3人は眺めていた。

「お前知ってたろ?」

裕が長原に言うと長原は笑いながら

「昨日、送ったときに知ったよ。お前たちが驚くと思って内緒にしといた」
「驚いたレベルじゃねぇよ長原ちゃん」
「でも、土田が望んでた可愛い転校生じゃん」
「確かに可愛いが気の強いところは苦手だ」

土田は残念そうな顔をした。宮田は変わらず周りに人が集まってきている良く見たら男が多いのは皆少しでも近づこうとする意図があるのかもしれない。
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