最後の春
「失礼しまーす」

本日二度目の職員室。去年までの裕なら1日に二度も職員室を訪れることなんか精々遅刻した時ぐらいしか無かった。桜井はノートPCに何か打ち込んでいるおそらく授業に使うプリントでも作成しているのだろう。近くにいた教師に桜井を呼び出してもらうと桜井は裕たちに気づき手を休めて入り口にやってきた。

「この空気が違う雰囲気が俺は嫌いだ」
「遅刻しすぎで呼び出されるから嫌いなんでしょ?土田は」
「桜井ちゃん俺だって好きで遅刻してるわけじゃないんだよ。目覚ましが壊れたりして…」
「毎日続いてるなら買い換えることを勧めるよ」
「じゃあ今度一緒に買いに行こうよ」
「はいはい。ご自分でどうぞ」

土田をバッサリ切り捨てた桜井は職員室の隣にある生徒相談室に裕たちを案内した。

「映画同好会?」

パイプ椅子に座った桜井は裕が提出した紙を見た。生徒指導室の空気は4月とは思えないほど冷たく、ある種の緊張感が生まれる。先ほどまで冗談を言っていた土田までもがその緊張感を感じたのか静かだ。

「ええ、それで顧問を探してるんですが僕たちの希望としては映画に興味がある人が良いと思ってるんです。先生誰かご存じないですか?」

裕が言うと、桜井は黙ったままだった。特にめぼしい人はいないのだろうか?そうならば違う先生に聞いて見るしかない。裕が話を切り上げようとしたとき

「知ってると言ったら知ってるけど…引き受けてくれるかどうかはわからないわよ」

桜井は裕の目を見て言った。
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