最後の春

後輩

「ウチここ」

弥生駅から自転車で数分のところに西山の家はあった。木製の看板には「西山酒造」と金文字で書いてある。

「酒屋さん?」
「そう。泉知らなかったっけ?」
「知らん」
「興味持てよ」

大して話したことが無かったのに知るわけが無いと思ったが言わないでおこうと裕は思った。相田は用事があるから来れなかったので裕・長原・宮田・土田の4人でやってきた。入り口付近で体格のいい男がビールケースを運んでいる。外見から判断すると西山の親父だろう。裕たちに気づいた親父さんは

「今日は珍しく男がいるじゃねぇか、でどれが彼氏だ?」
「はーい、彼氏でーす」

土田が手を上げる。西山があわてて「違うから!」と言うが親父さんの耳には聞こえてこないようで

「そうかぁ!よし、お前合格だ!よろしくな!」

土田と握手をかました親父さんはワゴン車に乗り込み発車して行った。さすがの土田も親父さんの行動に唖然としている。

「合格だ!おめでとう」

長原が土田にささやき笑う。西山は「あとでちゃんと言っておくから」と恥ずかしそうな顔をしていた。

「マサいる~?」

入り口で西山が叫ぶと

「何だ?」

という声が返ってきた。どうやら兄貴はいるらしい。西山のあとに続いていくと西山のお兄さんと思われる人がタバコを吸いながらテレビを見ている。

「どうした?何か用か?」

裕たちの姿を見てタバコの火を消したマサは上半身裸だったが宮田をみると傍においてあったシャツを着ながら

「ダチがいるなら早く言えよ」

マサの注意を無視し、

「兄貴の雅弘。専門学校行ってたから何か使えるかも」

と裕たちに紹介し。

「役者って言ってもちょい役だから。そっちは使えるかどうかわかんない」

と付け加えた。

「おいおい、いきなりだな。いつか売れてアノ雅弘さんの妹と言わしてやるから今の言葉忘れるなよ」

雅弘はそういうと、

「んで、こいつらは?」

と西山に聞いてきた。西山は先ほどの出来事を説明し何か良いアドバイスないかと言った。
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