最後の春
「あっ、おかえり」

土田と別れた裕は長原と少しぶらついてから帰ってきた。今日は部活が無かったのだろう優美は裕の声が聞こえたかと思うと部屋から駆け降りてきた。優美が「おかえり」と言ってくること自体滅多に無いことなのに、駆け降りてきたということは何かしら用事があるのだろう。

「ああ、」

面倒なことには巻き込まれたくない裕は適当に相槌だけを打ち、部屋に移動しようとしたが、逃がさないように裕の腕を優美が掴む。

「何すんだ?」
「いや、何すんだ?じゃないから」

優美は、そういう言うと裕をソファに座らせた。

「何だよ?」

裕は周りを見渡してみたが昌子の姿は無い。

「またか?」

裕は溜め息をついた。今日もまたカラオケにでも行っているのだろうか。昌子がいないならば晩飯の調達をしないといけない。

「いや、それは大丈夫だから」

優美はそういうとテーブルを指差した。そこには山積みの唐揚げにキッチンペーパーがかけられている。どうやら晩飯の調達ではなさそうだ。そうなると呼び止められた理由が裕には思い付かない。

「兄、これ見て」

裕の隣に座った優美は広告を裕に見せた。広告はA4判サイズで縁日のイラストが書かれている。

「なんだこれ?」
「ここ見て」

優美が広告の右下を指差す。そこには『イラスト長野美樹』と書かれていた。
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