最後の春
「長野美樹？」

裕が優美の顔を見たあと改めて広告を見る。広告には『夢ヶ咲神社大礼祭』と書かれており、催し等が行われるらしい。

「お前、これどこで見つけた？」
「弥生駅に置いてあったのをもらって来た。最初縁日があることを兄に伝えようとしたんだけど、イラストに長野さんの名前が書いてあったからびっくりして帰るのを待ってた。」

優美が興奮しながらまくし立てているのを聞きながら裕はイラストをもう一度見た。イラストは海の近くに建っている神社が描かれていた。裕には美術的な専門知識は無いが一目見ただけで縁日特有の賑やかな様子が想像できる。

「これを長野さんが描いたなら長野さんも夢ヶ咲にいるってことだよね？」

何かを確信したかのように優美が言った。確かに優美が言うとおり、そこに住んで無い奴が広告のイラストを描かないだろう。

「ああ、そうだろうな」

裕は優美にそれだけ告げると広告を持ち玄関に向かった。

「ちょっと行ってくる」

裕がそう言うと優美は何も尋ねずに

「行ってらっしゃい」

とだけ言い、家のカギを裕に投げた。裕はカギを受け取ると自転車を走り出した。
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